新興国債券戦略のプロに聞く
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このページは2012年1月に開催されたHSBC 新春投資セミナー 「マクロ及び新興国投資戦略」の講演をもとに作成しています。

ピーター・マーバー


HSBC グローバル・アセット・マネジメント(USA)
エマージング債券運用チーム チーフ・ビジネス・ストラテジスト


エマージング債券運用で20年を超える経験を有し、HSBCグローバル・アセット・マネジメ ントのグローバル・エマージング債券運用で中心的な役割を担っている。
1993年からコロンビア大学等で教鞭を取り、国際金融関係等で各種メディアで取り上げら れる機会も多い。3冊の著書を出版。1998 年に出版した初著「From Third World to World Class: The Future of Emerging Markets in the Global Economy」はナイト・リッダー紙より「ビジネス書トップ10」に選ばれた。World Policy Institute、New America Foundation、コロンビア大学、Emering Market Traders Association(新興市場トレーダー協会)のボードメンバーも務める。
HSBC 入社以前には、ワッサースタイン・ペレーラ(現ドレスナー)、スイス銀行(現UBS)を経て、アトランティック・アドバイザーズLLC(2005年にHSBCが買収)創設メンバーとして社長を務めた。


パリ・ソルボンヌ大学、ジョン・ホプキンズ大学学士号、コロンビア大学MIA

ピーター・マーバー

新興国の経済は過去と比較して非常に良好であるといわれますが、具体的にはどの様な状況にあるのでしょうか。


新興国経済は著しい発展を遂げ、その経済規模は、購買力平価調整後ではすでに先進国全体を上回る水準に達し、世界経済の重心が新興国にシフトしつつある状況です。先進国の総労働人口は、今後長期的に横ばいないし減少が見込まれるのに対し、新興国の総労働人口は拡大を続ける見通しで、長期的な労働人口の増加予測は、新興国の長期的な成長見通しのひとつの根拠となっています。


世界のGDPに占める割合


経済成長を通じ新興国のファンダメンタルズは大きく改善し、いまや新興国の平均では純債権国の地位にあり、ソブリン格付も平均では投資適格の水準に達しています。国内総生産(GDP)に対する財政収支や公的債務残高の面でも新興国はもはや先進国より良好なものとなっています。


GDP占めるに財政収支の割合



GDP占めるに公的債務の割合


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新興国の経済・財政状況が改善しているとして、そもそも新興国債券に投資を行う理由をどの様に考えればよいでしょうか?


債券は、年金基金や金融法人等、機関投資家にとって最も重要な投資対象となる代表的なアセット・クラスです。しかし、現状、機関投資家の運用の大半は米国、ユーロ圏および日本等の先進国債券への投資が中心で、新興国債券への投資は非常に限定的なものとなっています。

新興国債券保有のメリットとして注目するべきは、その優れたリスク/リターン特性です。過去10年間の新興国債券はハードカレンシー建て・現地通貨建てを平均すると、新興国株式の約半分のリスク(ボラティリティ)水準で、株式とほぼ同水準のリターンでした。

インデックス ボラティリティ
(年率)
リターン
(年率)
新興国株式 MSCIエマージング 23.97% 13.45%
欧州株式 Euro Stoxx50 23.79% 0.94%
日本株式 Nikkei 225 18.95% 0.66%
米国株式 S&P 500 15.76% 0.69%
新興国通貨 JPモルガン GBI-EM グローバルディバーシファイド 11.53% 15.73%
新興国債券 JPモルガン EMBI グローバル 9.69% 10.10%
グローバル債券 バークレイズ・グローバル総合 6.30% 7.34%
地方債 メリルリンチ・ミュニシパル・マスター 5.44% 5.39%
米国債券 バークレイズ米国総合 3.78% 5.68%
欧州債券 バークレイズ欧州総合 3.21% 4.71%

出所: MSCI、ブルームバーグ、HSBC 2011年5月31日現在 ボラティリティ、リターンは全て米ドルベース
*データ期間:2001年6月~2011年5月 新興国通貨については7年間のデータを記載。


投資家が、新興国債券を既存の先進国グローバル債券ポートフォリオに一部組入れるだけでも、債券ポートフォリオのリスク・リターン特性は大きく改善します。また、優秀なアクティブ・マネジャーの運用によるアルファの獲得や、ボラティリティを管理した絶対収益型運用の組入れなどにより、さらに数値の改善が期待できます。

また欧州発の金融危機以降の先進国各国が協調した金融緩和政策の結果、先進国の長短金利水準は著しく低下し、将来的な金利上昇リスクを勘案すると、米国債も含め、先進国国債はもはや安全資産とはいえない状況にあります。


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現在の新興国債券市場のバリュエーションはどうでしょうか。欧州発の金融危機やその影響が懸念される中で、投資の可否やタイミングをどう考えればよいのでしょうか?


新興国ソブリン債と米国債とのスプレッド(利回り格差)の推移を見ると、各国の財政状況は大きく改善したにもかかわらず、依然2007年前半の水準を大きく上回る水準で高止まりしています。

社債についても同様のことが見られます。特にハイ・イールド社債の発行体は、一般的に、米国の同格付の社債より財務内容が健全であるにもかかわらず、新興国社債としてのリスク・プレミアムが加算された状態が続いています。


新興国ソブリン債と米国債の利回りのスプレッドの推移


新興国社債と米国債の利回りのスプレッドの推移



為替に関しても、購買力平価調整後GDPで見た新興国通貨のバリュエーションは、総じて非常に割安であるといえます。

個人的には、今回の欧州発の金融危機の問題の大半は、すでに新興国債券の価格に織り込まれたと判断しています。しかしながら、先進国発の様々な問題で新興国債券市場のボラティリティは高止まりを続ける可能性があり、投資は一気に特定資産に投下するのではなく、計画的に戦術的な投資対象の分散を図りつつ、かつ時間的な分散も図る必要があると考えます。

また、米ドル建債券については、長期的には米国金利上昇のリスクも勘案し、新興国市場のクレジットリスクと米ドル金利のリスクを分別して管理し、場合によっては、早いうちに米ドル金利リスク部分をヘッジする等の対応も必要になると考えます。

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(ご留意事項)
上記に記載の経済見通しは、2012年1月時点のものであり、今後変更されることがあります。
使用するデータ等は過去の実績あるいは予想を示したものであり、将来の成果を示唆するものではありません。